ウェッジのソールには傾斜がつけられています。シャフトの軸線からフェースをストレートにしたときにできる角度がスペックになります。バウンス角です。
ウェッジにおいて、ロフトの次に重要視されるバウンス角ですが、なんとなく雰囲気で考えているゴルファーが多いのには驚かされます。このバウンス角は、ウェッジの命ともいえる重要なものだからです。
バウンスが生まれた逸話には有名なものがあります。
メジャー7勝の伝説のゴルファーのジーン・サラゼンが、弱点だったバンカーショットに悩んでいたときに、飛行機が尾翼のフラップを上げて上昇するのを見て閃いて、9番アイアン(当時、ウェッジはまだ一般的ではありませんでした)のソールに鉛をハンダ付けしたのが始まりだというものです。
晩年、親日家だったサラゼンは来日したインタビューで、本当は契約していたウィルソンのスタッフが考案して、提案されたものなんだよ、とお茶目にカミングアウトしていました。
いずれにしても、サラゼンが1932年に実戦投入したバウンスが付いた9番アイアンは、翌年、ウィルソンから『R-90サンドウェッジ』として発売されて大ヒットします。その後、しばらくの間、ウィルソンのウェッジは名器と呼ばれる物語を作っていきます。
歴史を溯っても、バウンスがウェッジを生んだのだということがわかるのです。
20世紀は名器と呼ばれるウェッジが、長い間、王者に君臨した時代でした。上級者の二人に一人は同じウェッジというようなことがよくあったのです。
これは、構造上、最も重くなるウェッジの設計が困難だったことも影響しています。コンピューターソフトで設計するようになった現在では考えられないことですが、事情に詳しい人だと同じようなウェッジが市場に溢れていて、昔が懐かしいという声も聞こえてきます。
面白いことに、20世紀にはバウンス角はスペックとして重視されていませんでした。理由は簡単で、ほとんどのウェッジが同じようなバウンスだったからです。計測してみると、全ての名器は12度から14度なのです。
「そんなに多いの?」
と、現在のクラブに詳しいゴルファーは驚くかもしれません。現在では、12度から14度というのは、大きめのバウンス角となるからです。バウンスの役割について、どのくらいまで理解していますか?
角度だけではわからない、という意見もあります。確かにソールの面積、形状、削られている部位などで機能は変わります。しかし、目安としてバウンス角は重要なのです。
バウンスは、サラゼンの逸話を引き出さなくとも、地面にめり込まずに跳ねる機能を司るというのは有名です。バンカーショットで、ボールの手前にソールを落として、砂を爆発させるようにして打つエクスプロージョンというショットは、バウンスの発明と一緒に生まれました。跳ねる力を使うのです。
これだけではありません。同じウェッジで、ロフトは同じで、バウンスだけが違うもので比較するとわかることがあります。56度のロフトだと、バウンス角は12度から14度で、バックスピンが最もかかるのです。それより少ないバウンス角だとボールを高く上げるのは楽になりますが、バックスピン量は減っていきます。
名器と呼ばれるウェッジのほとんどが、12度から14度だったのは、名手たちが体験的に最も適しているバウンスを選択したからなのです。
では、どうして、近年、バウンス角が少なくなったのでしょうか?これはスピンがかかりにくいボールへの対応で、高さを出して止める需要が多くなったからだと考えられています。2015年末頃から12度から14度のバウンス角のウェッジのラインアップが徐々に復活しているのは、スピンで止められるボールが増えてきたことが背景にあるようです。
ウェッジは比較的安価で交換しやすい道具です。ソールを見つめて、バウンスについて考えてみましょう。上手く利用すれば、劇的にスコアアップができるようになります。オススメは12度から14度のバウンス角です。ウェッジの命ともいえるバウンス角を見直しましょう。