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ゴルフ小説|こちら港区ゴルフィ編集部 第5話 ~軽い衝撃の翌朝。ゴルフ向きの性格について考える!~

春のゴルフシーズン直前。あいかわらず、僕は冴えている。今日も84でまわることができた。我ながら、どんどんレベルアップしている。これも僕のゴルフセンスによるところか。

後ろの組で初ラウンドを終えた新人の愛ちゃんが上がってくる。僕は先輩として余裕を見せながら聞いてみる。初ラウンドで大変だったと思うけど、どうだった?

82でした~。

はい?

あの、82でした。

えっ? えっ? 初ラウンドで82?

いつもの妄想から目覚めると、朝の8時2分だった。編集部で徹夜作業をしてしまった。いやいや、嘘だ。衝撃の”愛ちゃん編集部加入祝い、初打ち大会”のあと、泥酔して編集部に泊まったのだ。

それにしても、愛ちゃんの初打ちは軽い衝撃だった(いや軽くはない)。彼女の打つ姿を見て、センスという言葉がすぐに頭に浮かんだ。

僕もそれほどセンスのないほうではないと思っていた(その勘違いが落とし穴かもしれないが……)。しかし、愛ちゃんの場合は、間違いなくゴルフのセンスがあると思った。もしかしたら”才能”と言ってしまってもいいかもしれない。

彼女が、今の女子プロように小さい頃からゴルフを始めていたらどうなっていたのだろうと思ってしまう。それぐらい、愛ちゃんの練習場初打ちは僕を驚かせた。愛ちゃんに追い抜かされる焦燥感も何もかも吹っ飛んでしまった。もちろん、ソフトボール国体レベルという抜群の運動神経もあるのだろうが、単純にゴルフの才能ありと思えるのだ。

僕のような素人がそう思っていても信憑性がないかもしれないが、編集長のジャンボさんが真面目な顔でそう言っていたので間違いないだろう。普段は真面目な顔で冗談をいう変な人なのだが、この件に関しては冗談なしという感じだった。

ジャンボさんは、ゴルフの雑誌や書籍の編集者出身。これまで多くのプロやトップアマ、才能あるプロの卵の10代アマを取材し、そのスイングを見ている。その目に狂いはないのだ。

ネット動画のボミプロ仕込みのスイングから打ち出された愛ちゃんのボールは、美しい弧を描いて、神宮の夜を舞った。なんて言うと、大げさに聞こえるかもしれないが、そんなふうに言いたくなるような素晴らしいボールだった(彼女の容姿の美しさも相まって、つい飾り立てて言いたくなってしまう)。

とくにドライバーで打ったボールは、少し右に打ち出され、多少フックはするものの(ドローともいう)、素晴らしい軌道でネットまで到達した。ネットがなければ200ヤードはゆうに飛んでいるよとジャンボさんは言っていた。その弾道は、初心者のものではなかったと思う。

ましてや、練習場初打ちなんて考えられなかった。言いたくはないが、もう何年もゴルフをやっている僕のへなちょこフェード(スライスともいう)より、よっぽど素晴らしい弾道に思えたのだった。

ジャンボさんはさらにこうも言っていた。

「彼女の場合、性格的にもゴルフ向きかもしれないな。決断が早く、やることに迷いがない。反省はしても無駄な後悔をしないようにも思える。切り替えが早いのだろう。ソフトボールで鍛えた集中力もある。スイングの思い切りの良さにそうした部分が見えてるな」

まあ、ベタ褒めだ。僕もジャンボさんの意見には同感だ。

まだ数週間だけど、愛ちゃんは物覚えも早く、仕事も迷いなくこなす。ミスがないわけではないが、与えられた仕事を前に妙な躊躇をしない。ミスの指摘に対しても、気持ちいいぐらいに明るく対応してくる。

「すみません。気を付けます!」

指摘する方が気持ちよくなる。普段のおしゃべりでは、ひと言余計なところもあるが、仕事ではひたすら謙虚だ。おしゃべりでひと言余計な部分は、頭の回転の早さのあらわれでもあるし、誰とでも打ち解ける武器になるような気にもなる。基本的に彼女のおしゃべりは、場の空気を和らげる雰囲気があるように思えるのだ。

というわけで、昨夜、僕は決断した。ゴルフで愛ちゃんと張り合うのはやめようと。おそらく、彼女が練習を続ければ、スコアはどんどん上がるに違いない。ゴルフはそんなに甘くないと信じたいが、愛ちゃんならそれが可能なように思えてしまう。初ラウンドでの100切りはおろか90前後もあるような気にもなってしまう。

ちなみにジャンボさん曰く、

「タジィの性格もまあゴルフ向きかもな。切り替えが遅いのは致命的だが、しつこさがあるからな。いや、粘り強さだな。それに、じくじく悩むわりには能天気なところかな。いや、明るいところだな」

全然、褒めてない。ジャンボさんはわざと言い間違えてみせる(くそオヤジ!)。しつこくて能天気。矛盾しているような気にもなる。それに、とてもゴルフ向きの性格とは思えないじゃないか!

つづく

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