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ゴルフ小説|武夫のゴルフ上達物語 #4 ~予期せぬコースデビューと挫折~

父が1階から上がってきた。

「武夫、今度の日曜日は暇か?」
武夫 「え?何で?」
「暇か?って聞いてるんだ。」
武夫 「ん、まぁ。」
「1日空けとけ。」
武夫 「…。」

2階にすら滅多に上がってこない父が部屋に入ってきたのだ。言ってはいなかったが武夫は未だに実家暮らしだ。母は4年前に他界し、今は父と2人で暮らしている。父はとっくに定年退職し、一日中家にいる事がほとんど。1階に父、2階に武夫、母のいなくなった実家で、2人の距離は遠くなった。母は子宮がんだった。

約束の日曜日、早朝から父が忙しそうに動き出した。1階から聞こえるドタドタという音で目が覚めた。

「武夫!ゴルフクラブ持って降りて来い!」
武夫 「はぁ?」
「いいから急いで降りて来い!」

武夫は何の事か分からず、急いで着替えて階段を駆け下りた。ゴルフクラブをトランクに入れて父の車で2人出かけた。父の車で…なんて言ってはいるが、家には父の車しかない。向かった先は自宅から1時間程離れたゴルフ場だった。

武夫 「ゴルフやるの?俺、コースなんて回った事ないんだけど。」
「そんな事はどうでも良い。」
武夫 「なんだよそれ。」

父と車中で話した会話はそれだけだった。意外な形でコースデビューとなった武夫。ともあれゴルフシューズを買っておいて良かった。ただ…

「おい武夫、これ使え。」

父が手渡したのは何とCallawayのキャップだった。使用した形跡はなく、間違いなく新品だ。そう、武夫はキャップだけは買っていなかったのである。 この暑い時期、一日中キャップをかぶらずプレーする事に、武夫は少し不安を覚えていた。メーカーをゴルフクラブと合わせてくれたのも、恐らく偶然ではないだろう。

武夫 「すんません。」

ありがとうは照れ臭かったので言わなかった。

父と一緒にスポーツをするなど武夫の記憶にはなかった。小さい頃にキャッチボールを…そんな事すらなかった。ただ武夫には丁度良かったのかも知れない。他の人と回って緊張する位なら初めは父と一緒に回った方がよっぽど良い。余計な気も使わなくて済む。

父はパター練習場で黙々とパットの練習をしていた。「そういえばパターの練習を全くしていないな。」武夫はまた少し不安になった。

「どっちが良い。先に打つか、後か?」
武夫 「後で。」

父にオナーを譲り、初ラウンドがスタートした。父のスイングは正直見てられない。誰に教わったらそんな悪いスイングになるのか、という位のものだ。とりあえず黙ってみてはいたが、なんとか真っ直ぐに飛んで行った。弾道はすこぶる低かった。

続いて武夫、息を大きく吐きアドレスに入る。練習通りと言い聞かせ、ゆっくりとテイクバックをとった。感触は良かった。ただボールは大きく右に出て、林の中に消えていった。

武夫 「あ、あー。」

とは心の声だ。初めから上手くいくはずもない。プロですらOBを打つのだ。ただ、武夫は悔しかった。2打目も3打目も芯には当たらなかった。まだまだ先は長い、気長にやっていこう。そんな風に無理やり考えてはいたが、その後も良いショットは出ない。昼休憩までの9ホール。武夫は全てにおいて納得のいくものがなかった。

結果、前半のスコアは「68」。少しずつ積み重ねてきた自信は、跡形もなく消え去っていた。まさに心神喪失状態でクラブハウスに戻ってきた武夫。こんな顔は誰にも見せられないだろう。同伴者が父で良かった。

「武夫、一杯飲むか?」
武夫 「ん、うん。」

武夫はビールで喉を潤し、鼻で大きく息をした。

クラブハウスでも父との会話は少なかった。練習ではある程度の手ごたえを掴んでいた武夫だったが、なぜここまで酷いゴルフになってしまったのか、正直理由が分からなかった。緊張からいつものスイングが出来ていないのか、いや確かに初め緊張はしていたが、思っていたよりは冷静だったはずだ。なぜなのか…。

同じくらい分からなかったのが父の「43」というスコアだ。あんなスイングで、あの程度の飛距離、たまたま入った6m程のパッティングはあったが、あとは目立った所もない。偶然が重なっただけなのか、武夫は少し混乱していた。

父< 「ふふ、こんなはずじゃ、って所か?」
武夫 「…。」
「綺麗なフォームで打てばポイントがつくのか?ゴルフの目的はなんだ?カップに入れる事だろう。」

武夫はふと気づかされた。更に父は続ける。

「地面と平行に立ちなさい。」

これは武夫には分からなかった。地面と平行に立てていないのか?練習通りに打っているつもりなのに…。オーダーした生姜焼き定食はとっくにテーブルに届いていたが、ほとんど口をつける事はなかった。

つづく

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