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【最終話】ゴルフ小説|武夫のゴルフ上達物語 #17 ~それでも夏美の傍に~

武夫のモヤモヤは続いていた。

夏美のライン…

「限られた時間ですが~」とはどういう意味なのだろうか。次の日も、その次の日も考えていたが、夏美に聞く勇気はなかった。やはりあまり好印象ではないのか?もしかしたら引っ越しとか?こんなに好きになった女性はいないのに。武夫は次第にモヤモヤが大きくなり、眠れない夜が続いていた。

次の日の仕事帰り、武夫は惣菜屋に寄ったが、そこに夏美の姿はなかった。今日は休みか、そう思い、好みの惣菜を探していると、レジ奥から別の店員さんが顔を出した。

店員 「あ、夏美ちゃんの!こんばんはぁ。せっかく良い子だったのに。残念ねぇ。」
武夫 「え?はい?」
店員 「知ってるでしょ?夏美ちゃん先週いっぱいで辞めちゃったのよぉ。」
武夫 「え?」

夏美は武夫にも言わずにバイト先を辞めていたのだ。もしかして、本当に引っ越してしまったんじゃないだろうか。武夫は急に不安になった。自宅に帰りラインをしてみた。返信どころか、既読にもならない。そのまま朝を迎えた。その日の武夫は仕事にならなかった。夏美にもう会えないのではないかという不安と、返信を待っていた寝不足で全く力が入らない。武夫は憔悴していた。

その日の夜、武夫はいつもの帰り道を通るのをやめた。惣菜屋の前を通ると、ついつい夏美がいるのではないかとお店を覗いてしまうからである。いないと分かっているのに覗いて、やっぱりいなくて、またショックを受ける、そんな風になりたくなかったのだ。

惣菜屋の前の通りと平行して走る一本隣のバス通りを歩いていると、ちょうど建物から出てくる夏美がいたのだ。武夫は無意識に大きな声で叫んだ。

武夫 「夏美ちゃん!!」
夏美 「た、武夫さん…。」

驚きと、気まずさが混ざったような顔をしていた。呼び止めたものの、何を喋れば良いのか分からない武夫。

夏美 「この前はありがとうございます。」
武夫 「バイト辞めちゃったんだね。」
夏美 「…。」
武夫 「引っ越すの?」

夏美は黙って首を振った。車通りが多い為、なかなか声が通らない。ただ、2人の間には妙な静けさが漂っていた。お互い下を向き、長い沈黙が続いた。その時夏美が重い口を開いた。武夫は夏美の話に絶句し、膝から崩れ落ちてしまった。何という事だろう、何と悲しい事が。夏美の目には涙が溢れている。それを見て武夫も涙を流した。武夫は思わず夏美を抱きしめた。武夫の胸で夏美はワンワンと泣いた。何人の人が2人の横を通り過ぎただろう。2人には分からなかった。

夏美が出てきた建物は病院だった。夏美は癌だったのだ。武夫の母と同じく子宮がんである。医師からは余命を宣告されていた。生きてあと1年。夏美は今まで黙っていたのだ。武夫と会う時はどんなに調子が悪くても、元気に、気丈に振る舞っていた。武夫は自分の事ばかり考え、その事に全く気付かなかった。気付いてやれなかった。武夫は自分に対しての怒り、情けなさを感じ、ひたすら泣いた。ひたすら泣いて、泣きつかれた。声が枯れて声が出なくなった。

どれだけの時間が経っただろうか。武夫が声を振り絞った。

武夫 「夏美さん、好きです。大好きです。僕と付き合ってください。」

夏美はまた泣いた。

武夫 「残りの人生、僕が夏美さんの傍にいます。だから、夏美さんも僕の傍にいてください。」

夏美は何度も頷いた。武夫は家の前まで夏美を送った。もう一度夏美を強く抱きしめ、夏美にこう言った。

武夫 「会える時は毎日会いたいです。僕はいつでも会いに来ます。」

夏美は嬉しそうだった。真夜中に鳩の鳴き声がする。ポポッポッポー、ポポッポッポー…。場違いな空気に2人は思わず笑った。

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あれから2年が経った。今日はゴルフだ。しかし暑いな。果たして1ラウンド持つのだろうか。入念にパットの練習をする武夫。昨日の雨のせいか、若干グリーンが重い気がする。「今日は強気のパットで攻めるか!」武夫は重めのグリーンが大好きである。1番ホール、ティーグラウンドに立った武夫。相変わらずゴルフクラブはCallawayだ。入念に磨かれたゴルフクラブは光り輝いている。いつも通りのテイクバック。ゆっくりを始動を始め、トップからの切り替えし、体に巻きつくようなヘッドがここぞというタイミングでボールに当たる!打球はグングン伸びてフェアウェイやや右250ヤードの所で止まった!

「ナイスショット!!」

大きな声が飛ぶ。武夫はいつも通り照れ臭そうだった。レディースティーにカートを走らす。隣には元気な夏美の姿があった。

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