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ゴルフ小説|こちら港区ゴルフィ編集部 第15話 ~愛ちゃんの”ゴルフが向いている3つのポイント”とタジィの決断~

新しい年を迎え、僕タジィは心機一転、本格的に体幹トレーニングを始めた。理由は単純だ。アルバイトの愛ちゃんのコースデビューのとき、ドライバーの飛距離で負けることが何度もあったからだ。愛ちゃんのコースデビューは衝撃的だった。スコアはもちろん、身体的なポテンシャルに加えて、精神的なポテンシャルも見せたのだ。「愛ちゃんは精神的にもゴルフに向いている」とデザイナーのケーシーがきっちり分析してくれた。

ところで、ケーシーもこの日、僕らの前でコースデビューをした。それがまたある意味、僕には衝撃的なものだった。ケーシーは、愛ちゃんのデビューということで「俺も参加しよう」と言いだした。
「いやいや、ケーシー、ラウンドしたことないって噂ですよ。実はできるんすか!」と僕がツッコむと、ケーシーは「俺は俺の流儀でコースを回る」とだけ言った。なんのこっちゃと思ったが、僕はどんなゴルフをするのか楽しみにしていたのだ。

そして当日、ケーシーは謎の古びた緑色のキャディバッグを持ってきた。その中にはドライバーと7番アイアン、PW、SW、パターと5本しかクラブが入っていなかった。そのバッグをゴルフコースの若いスタッフはいぶかし気な顔をしてカートに積み込んでいた。

スタートホール、ケーシーはボールをセットせずに、ただドライバーを打つ方向に向けた。そして、すっと目を閉じ、しばらく瞑想すると、「よし」と言って、ティーイングラウンドを下りた。僕は戸惑いながら、「いいんすか」と編集長のジャンボさんに言うと、ジャンボさんは何も言わず微笑みながら頷いたのだった。

ケーシーはフェアウェイやバンカー、グリーン上でも同じ動作を繰り返し、結局傍から見ているとラウンドしている風に見えて、クラブを一度も振ることはなかった。基本的にはプレーせずに愛ちゃんを中心に僕らのスイングなどをずっと撮影していた。はじめはこんなラウンドが許されるのかと思ったが、ジャンボさん馴染みのコースだし、ジャンボさんは当たり前のようにプレーしているし、問題ないのだと考えるようにした。

ケーシーにあとからラウンドの真意を聞こうと思ったが、僕の理解できるような返事を返してくれるとはとても思えなかったので、ジャンボさんに聞いてみた。

「ケーシーのラウンドってあれでいいんすか」

ジャンボさんは笑って言った。

「いいも悪いもあれが奴の流儀だ。クラブを振らなくともああして奴はゴルフを楽しんでいる。ボールを打つだけがゴルフじゃない。ラウンド料も払い、無駄な時間を使うこともない。おそらくケーシーの中ではほぼパープレーだからな。文句のつけようがない」

「はあ・・・」とやっぱり僕はよくわからなかった。

とにかく、そんなケーシーによる愛ちゃんの”精神的にゴルフに向いている”というポイントは3つ。

1. 状況判断力が高い

2. 自己認識力が高い
3. 切り替えが早い

状況判断力の高さは、同時に観察力の高さでもあり、ある状況に最適なショットの選択ができることだとケーシーは言った。初心者が最適なショットを選択することは難しいが愛ちゃんは別なのだという。ショット力は初心者ではないにもかかわらず、自分の実力を過信せず無理に難しいピンの位置を狙わないとか、状況によってはそもそもグリーンも狙わないとか、そういう冷静な判断が愛ちゃんにはできるのだ。

自己認識力が高いので、できないショットを打とうとしない。自分にはここでグリーンを狙えるだけのショットを打つ技量がなく、リスクがあるから狙わない、そういう判断ができるのだ。

さらに、失敗してもその後に引きずる様子がない。切り替えが早いからリカバリーができる。どうしてミスしたんだと思いながら、ミスを重ねたりしないのだとケーシーは言った。

ケーシーにこの話を聞かされて、初心者の頃の僕と真逆じゃないかと思った。いや、今だって技術的には無理めなショットをチャレンジして玉砕したりすることがある。ゴルフはそういう慢心というか傲慢さというか、そういう心の在り方との闘いかと思っていたが、愛ちゃんはそういうものをもともとの資質で飛び越えてしまっているということなのだ。

ケーシーはこうも言った。

「ただ、もちろん、まだ途上だ。完全にコントロールできているわけではない。まあ、それができるなら、彼女の身体的能力を考えればプロの可能性だってなくはないがな。あとは本人の意志の問題だ」

というわけで、愛ちゃんのデビュースコアは「89」だった。いきなり100どころか90も飛び越えて見せた。僕としてみたら、衝撃だ。ただ、この日は僕も調子がよかった。愛ちゃんに引っ張られるように、後半パーを連発して、「87」だった。

愛ちゃんは、フラットなところではほぼミスショットがなかったが、左上がりやつま先下がりなどといった、傾斜のあるライでミスショットをしていた。愛ちゃんのことだから、きっちり予習はしていて打ち方などを頭に入れていたと思うが、やはり現場では簡単にはいかなかったのだろう。そうした経験の差があって、僕の方がほんの少しスコアがよかったように思う。だが、次はきっちり上をいかれるような気がしている。

そんなこんなで、僕は飛距離アップを目指し、体幹を鍛えるためにジムに通い始めたというわけだ。こんな”決断”、単純と言えば単純だし、愛ちゃんに勝つためにどれだけ役に立つかわからない。でも、新しい年の”決断”は単純でいいのだと思う。複雑なことを考えても僕のような人間は、長続きはしないし、まずは前進することが大事なのだから。

つづく

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