衝撃の愛ちゃん練習場初打ちから数日が経ち、僕のショックもだいぶ軽減されてきた。でも、その衝撃が原因かどうかわからないけれど、最近、編集部で妄想できなくなってしまった。いいことなのかどうなのか……。
あの日は、愛ちゃんのスイングや打ち出されるボールの素晴らしさを目の当たりにして、そのポテンシャルの高さに自信を失い、張り合うのは止めようと気弱になってしまった。しかし、僕も男の子だ。このまま黙って引き下がるわけにはいかない。
ところで、あの日以来、編集長のジャンボさんは愛ちゃんになにやら個人レッスンをしている。と言っても、練習場に連れていくわけではなく、ボールを実際に打てない時にする練習を教えている。
たしかに、20代前半の愛ちゃんは自分のクラブも車も持っていないし、お金もそんなにあるわけじゃない。打ちっ放しのゴルフ練習場は意外とお金がかかるから、そんなに通うこともできないだろう。
だからって、ジャンボさんがそうそう連れて行くなんてことはできないし、それほどジャンボさんも暇ではない。それに、いくらジャンボさんでもそんなに甘やかしたりもしないのだ。
ただ、また来月、僕も含めて仕事終わりに練習場に連れていくと約束してくれた。それまでにいくつかの課題を愛ちゃんに出したのだ。
まずは、パット練習。ドライバー250ヤードを飛ばすジャンボさんだが、実はパットも上手い。というよりも、大事にしている。どういうことかと言うと、とにかく丁寧なのだ。パットに向かう姿勢の緻密さがまずカッコいい。ルーティンが完璧。パッティング・メソッドもブレがない。以前、説明されたけど、あまり理解できなかった。でも、なんだか感心したのを覚えてはいるのだ。
だからということもないけど、ジャンボさんの3パットを僕は見たことがないし、長いパットでも入らない時はほとんどがタップインだ。それに1~2メートル前後のパットもほぼ外さない。
その集中力はすごいもので、以前、花粉症の僕がどうしても抑えられなくて、ジャンボさんのパットを打つ瞬間にくしゃみをしてもまったく気が付かなかったのだ。僕がジャンボさんのパット後に「すみません! ジャンボさぁん」というと、「どうしたタジィ、なんかあったか」と涼しい顔をしていたのだ。
それから、ジャンボさんはパットに対して、こうも言っていた。
「最終的に最も精神的にダメージを与えるのはパットが入らないことだ。これが続くとゴルフは厳しい。パットに大事なことは、リズムとそこに至るまでの手続きだ。つまり、ルーティン。単純に動作だけのルーティンではなく、精神的なものも含まれているんだ……」
まあ、こんな調子で長い講釈が、いやいや有難いお話が続いたのだが、僕はやっぱりあまり頭に入らなかったのだ。
そんなジャンボさんが、愛ちゃんにジャンボさんの10本近くあるパターコレクションの中の1本とパターマットを貸した。ジャンボさんは家に持って帰っていいと言ったけど、愛ちゃんは編集部に置いて、毎朝毎晩タイムカードを押す前と後に30分ずつ練習している。ジャンボさんの課題は、1メートルを連続で15球入れること。14球で外れたらまた初めからやり直し。できるまで帰れまテンなのだ(まあ、朝の30分は仕事前だからやめざるおえないけど)。
実は、1メートルでもこれは意外と難しい。たしか、横峯さくらプロもこうした練習をやっていたと思う。ただ、愛ちゃんは強制でも何でもないからやる必要もないのだが、ジャンボさんに褒められてすっかりその気になっているところもあり、もともと真面目で素直な性格で向上心も抜群だから、きちんとそれを続けている。
ジャンボさん流のパットメソッドというか、パットイズムというか、そんなものを習得した愛ちゃんは、初めてのラウンドでどんなゴルフをするのだろうか。なんだか考えるだけで恐ろしい。
とはいえ、僕も感心ばかりはしてられない。引き下がらないと決めた以上は、同じように練習をしたいと思っている。
ジャンボさんのいいところは、愛ちゃんにだけでなく、僕にも助言してくれるところだ。
「タジィは精神的に弱いところがあるからな。3パットの後のドライバーがブレブレとかな。だから、いい機会だからパットの練習をもう一度しっかりしといて損はないぞ。前に買ったって言ってたマット、あるだろ。1メートルだけしつこくやればいい。1メートルに自信がつけば、長いパットが怖くなくなるんだよ。しつこい性格を生かせるから簡単だろ」。
まあ、しつこい性格うんぬんはひと言余計だ。でも、少し「愛」も感じる。愛ちゃんに負けじと、頑張るしかないのだ。
つづく