アルバイトの愛ちゃんがいつもと違う。アイドルみたいなヒラヒラのスカートをはいている。いつも可愛いけど、さらにキュートだ。
「タジィさん、報告があるんです!」
「愛ちゃん、どうしたの?」
「私、決めたんです。3ヶ月後にデビューします!」
「えっ、デビューって、AKB? HKT? それともハロプロ系?」
「乃木坂です」
「えー、マジで! すごいじゃん。じゃあ、白石麻衣ちゃんのサインと、それにできたら、HKTだけど、さっしーのサインも…」
・
・
・
・
「タジィさん! 起きてください!」
「はれぇ、愛ちゃん、乃木坂でデビューするんじゃ…」
「なに言ってるんですか、また妄想ですか。ゴルフですよ、ゴルフ。コースデビューです!」
「ああ、そうか、そうだよね」
「そうですよ!」
愛ちゃんのゴルフ熱が最高潮に達したらしい。練習場でケーシーに録画してもらった自分のスイングを見て、毎日素振りをして、体育会魂にがっちり火が付いたのだという。「もっとうまくなりたい」と。
ジャンボさんにコースデビューを相談し、その勢いに押されたジャンボさんが3か月後に連れていくと約束したのだそうだ。
「スクールに通うこともちょっと考えたんです。でも、よく考えると編集部に3人もコーチがいるので教えてもらおうと思ってます」と愛ちゃんは言った。
「えっ、僕も入ってるの?」
「当たり前ですよ。私よりずっと経験者だし、それにゴルフって技術的なことばかりじゃないですよね。どんな時にどんな気持ちになるかを知りたいんです。精神的なとこ、教えてください!」
「そんなものかなあ」
「はい、そんなもんだと思います!」
ふだんは軽口を叩いていても、愛ちゃんはゴルフ上達のためには謙虚だ。何事も謙虚は上達の近道だと言うし、それに表情は真剣そのもの。僕に教えを乞うなんて、いい意味でどん欲と言ってもいい。
もっとも「どんな時にどういう気持ちになるか」と言われて、僕が小市民的に「スタートホールではみんなが見ているから緊張するよ」なんてことを言ってもあまりにも意味がないように思う。ふだん、物怖じしない愛ちゃんを見ていると、初心者を悩ますスタートホールの”緊張くん”としっかり友達になって、さらっとナイスショットを打ってしまうような気にもなるからだ。
「デビューまで、できるだけの準備をしたいんです。もちろん、初めてのラウンドはいくら練習しても緊張して体が思うように動かないかもしれないんですけど、それでも、しっかり練習はしておきたいんです」
キラキラした真っ直ぐの愛ちゃんの瞳に見つめられると、僕は「そうだよね、大事だよね」とうなずくことしかできない。そんな愛ちゃんが”コースデビューまでにやっておきたい7つのこと”を教えてくれた。なんでも、ジャンボさんやケーシーから教えてもらったり、雑誌や本やネットで研究したりして、コースデビューまでにやっておきたいことを考えているのだそうだ。
愛ちゃんの”コースデビューまでにやっておきたい7つのこと”
① | 1メートルのパット練習。20球連続入るまで帰れません。 |
② | 2メートルのアプローチ練習。ウェッジの振り方、リズムを習得する。 |
③ | きちんと体重移動をできるようにするため、バッドでのスイングリズムの練習。 |
④ | ドライバー、アイアン、パットのルーティンを決めておく。 |
⑤ | 体幹強化のストレッチをする。 |
⑥ | ミスショットをしたときに気持ち的にひきずらないための方法を心にしっかりと刻む。 |
⑦ | 基本的なルール、マナーは頭に入れておく。 |
こんな感じの愛ちゃんの”やっておきたいこと”は、なかなか練習場に行けない彼女なりの準備のようだ。でも、初ラウンドでここまで準備する人はなかなかいないだろう。愛ちゃんは、ポテンシャルだけじゃなく、準備も万全で、”努力する”という才能も備わっている人なのだとあらためて思った。
愛ちゃんのコースデビューはおそらくケーシー以外の編集部3人でまわることになる。僕も負けてはいられない。愛ちゃんの”コースデビューまでにやっておきたい7つのこと”はゴルフをはじめてから数年経っている僕にも十分役に立つものばかりだと思った。
まずは再デビューのつもりでルールとマナーからおさらいしようかなあ…。
つづく