ゴルフミラーレッスンマガジン

昼食中は上司の嫌味がマシンガンの様に続いた。武夫は口をモグモグさせて黙って聞いていた。ここまで嫌味な人間もそうはいない。ゴルフとは本当に人間性が出るスポーツである事を改めて実感した。時たま目の前の先輩と目が合い、お互いに口元を少しだけニヤつかせた。

後半のホールがスタート。武夫は集中力を高め直した。前半、1ホール目こそ良い出だしだったが、その後、ボギーとダブルボギーが続いた。もう少しできるはずだと自分に言い聞かせティーグランドに立った。いつも通りゆっくりとテイクバックを始め、インパクトの瞬間だけ力を入れる。打った瞬間は良い感触だったが、ボールは大きく右に。ワンペナエリアへ入った。後半1ホール目だ。これからこれから。武夫は自分にそう言い聞かせた。上司が実に嬉しそうだった。

武夫の3打目、同じく右に出た。今度は6番アイアンで右に。武夫は原因が分からなかった。4打目はバンカー脇のラフから。バンカーに入っていなかったのが唯一の救いか。ピッチングウェッジで打ったボールは今度も右。スライスではない。完全なシャンクである。なぜ急にシャンクが出だしたのか、前半と変わらぬスイングをしているつもりなのに。

結局このホールはトリプルボギー。本日初めてのトリプルボギーだ。11番ホールに向かうカートの中で上司が得意げにこう言った。

確かに何が何だか分からない。そもそも練習場でもシャンクなど出た事がない武夫は、どう直して良いのか分からなかった。先輩は口を閉じたままだった。

11番ホールの1打目も同じく右へ。今度はOBだ。プレイングフォーからの4打目も、5打目も、同じくシャンク。武夫のスコアは酷いものになっていた。11番ホールだけで11打叩いた。武夫に訪れた初めての試練だ。これにはさすがにショックを隠し切れない。前半は折角先輩と良い雰囲気で回れていたのに、その先輩にも気を使わせてしまっているのではないかと思うと、余計に動揺した。

相変わらず上司は嬉しそうだ。12番ホール、武夫は最後にティーグラウンドに立った。そういえばこうして4番手でティーグラウンドに立つのも今日初めてだ。武夫はシャンクの恐怖から必死に逃れようとしていたが、それは無理だった。予想通り右へ出た。

「参ったな…。」

思わずこぼれた本音だった。

カートを降りてボールを探した。幸いこのホールの右部分はフリーゾーン。ははは、フェアウェイにあるではないか、隣のコースの。先輩も右へ出た様で、途中まで一緒に歩き、武夫のボールを探してくれた。もう、先輩がどこへ打ったのかすら覚えていない。

先輩との会話はこれだけだったが、暗闇を彷徨っていた武夫にとってはまさに一筋の光の様だった。

頭が残っていないのか？武夫は2打目をピッチングウェッジで打つ事にした。木々を超えてフェアウェイに戻さないといけないからだ。先輩に言われた事だけを考え、ボールを打った。するとボールは力強く上に舞い上がり木々を超えていった。この感覚、そう、いつもの武夫の打球が戻ってきた。

「来た！」

武夫は小さく声にした。しかしボールはフェアウェイも超えて、今度は左のワンペナゾーンへ。飛び過ぎたのだ。上司が笑う。先輩も嬉しそう。しかしこの2人の笑みの意味は全くの別物だった。ワンペナゾーン横からの4打目、もう大丈夫だと武夫は確信した。打った瞬間、鋭く打球は舞い上がり、何とピンそば1mの所へグリーンオン。スピンが効いたボールはバウンドせずにビタッと止まった。

先輩のおかけだ。シャンクの原因はインパクトの瞬間にあると考えた武夫は、これまで手首をこねるような打ち方をし、修正を計っていた。しかし原因は頭が前に突っ込んでいる事だったのだ。

武夫は少し照れくさそうな先輩に感謝した。このパターを入れてボギーで抑えた。残りは6ホール、さぁ、武夫の逆襲の開始だ！

つづく