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ゴルフ小説|武夫のゴルフ上達物語 #5 ~挫折故の収穫~

後半戦のスタート前、武夫は10番ホールのティーグラウンド後ろに立っていた。しゃがんで覗き込んでみると、若干ではあるがティーグラウンドにも傾斜のある部分があった。これはなんだ?前半はそんな事気にする事もなかったのだが確かに傾斜がある。ティーグラウンドでもこんな状態なのだから、フェアウェイやラフはもっと傾斜がきついはず。

武夫は1打目を打つ前に、ティーグラウンド内で傾斜のない場所を探しティーを刺した。1ホール目と同じく、一度大きく息を吐き、アドレスをとった。ゆっくりとテイクバックしゆっくりと振りきった。

するとどうだろう。会心の当たりとは行かないが、ボールはフェアウェイに転がっていったではないか。前半は一度も捉える事がなかったフェアウェイにボールが転がった。嬉しさで顔が緩みそうになったが、父のアドバイスのおかげと思われたくなかったのか、表情は崩さなかった。後ろで父が笑っているようにも思えた。

相変わらず父のスイングは滅茶苦茶。弾道もすこぶる低い。ただ、アゴは上がらず、上半身は絶対に反り返る事はなかった。

武夫の2打目、ピンまでは160ヤード。ボールはフェアウェイの下り坂、左足下がりの状態であった。父に言われた、「地面と平行に立ちなさい。」の言葉が頭をよぎる。元々、打ち終わった後に状態が反り気味になる為、とにかく前かがみを心掛けた。

傍から見たら親父さんとスイングが似ているねと言われそうだ。左膝をいつもより深く曲げ、上半身が左に傾いている。力を抜いて6番アイアンを上から振り下ろした。するとボールは低い軌道で真っ直ぐに飛んで行った。カラーのコブで大きく上にバウンドし、勢いが弱まってグリーンに落ちた。初めてパーオンに成功した瞬間だった。

地面と平行に立つという意味、それが分かった瞬間でもあった。父は3打目でグリーンオン。この時点で父に勝っているではないか。前半では一度もオナーが回ってこなかった武夫。このホールはオナー奪取のチャンスが十分にある。ピンまでの距離は父よりも近い。7m程を残してはいるが、あわよくばバーディーも狙える位置である。初パーを取る前に初バーディーをとるというのも悪くない話だ。

武夫は読めないラインを必死で読んだ。打った瞬間、やや強いかと感じたが、何かの番組でツアープロが言っていた。「ショートしたら入らない。」その言葉を無理やり信じ、カップに入る事を祈った。しかしボールは無情にもカップの右脇を通過。それどころか、勢いは弱まる事なくコロコロと転がっていく。ようやく止まったのはグリーンを外れたカラーであった。

武夫は悔しさから思わず目をつぶり下を向いた。大分下りのラインだった。打つ前よりも打った後の方がカップまでの距離が残っているではないか。父はファーストパットをカップ脇までつけ、OKボギーでホールアウトしていた。後ろでまた父が笑っているような気がした。

武夫は4打目のパーパットを打った。今度は極端にショート。先ほどのイメージが残っていたのか、手元でスピードを緩めてしまった。結局5打目も入らずダブルボギー。2オン4パットという何とも苦い思い出だけ残ってしまった

武夫はその後も、ショットは良いがパットが悪い、を繰り返した。随分マシなゴルフになって来たようにも思えるが、武夫の感じていた不安は、この後半に的中した。

15ホール目を過ぎたあたりだ。

「なんでまたゴルフなんて始めたんだ?」
武夫 「…。特に理由はないよ。」
「お前は俺より筋が良い。俺に似なくて良かったな。」
武夫 「まぁね。」

相変わらず父のゴルフは安定している。派手さはないが、パーやボギーを積み重ね、前半と同じ位か、むしろ少し良い位のペースだ。二度の倒産に直面し、それでも家族の為に必死で働き続けた父。形にこだわらず、どんな仕事でも一生懸命働いた。父のゴルフのプレースタイルは、これまで父が歩んできた人生をそのまま映しているかの様だった。失敗しても決して表には出さない。形にこだわらず、フレキシブルに対応し、結果を出し続ける。ゴルフとは人間模様なのかも知れない。武夫は少しだけそう思った。

全てのホールが終了した。後半の結果は「63」。前半とあまり変わらないではないか。一方、父はさすがだ。武夫のような初心者と回っても、「43」「42」、トータル「85」だ。

「武夫、初めてでこのスコアは上出来だ。凄いじゃないか。」
武夫 「そうなの?」
「このまま続けていけばあっという間に100を切れるぞ。」

帰り道、父は運転しながら嬉しそうに話した。久しぶりの父の笑顔だった。武夫も少し鼻で笑った。夕日が眩しかった。

「なんか食べて帰るか?」

少し悩んだ武夫は、何故か大好きだった母のカレーライスを思い出した。

つづく

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