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ゴルフ小説|武夫のゴルフ上達物語 #8 ~過ちへの気付き~

迎えた当日の朝、武夫は朝からバタついていた。洗車を忘れていたのだ。家には父の車しかない。使用許可は前日父に取っていたが、なんとまぁ汚い車。こんな車を夏美に見られた日にはそれこそゴルフどころじゃない。洗車場はまだ開いていない為、武夫は玄関先で車を手洗いした。車内を掃除している時間はない。

武夫は焦る気持ちを必死で押さえながら運転し、ゴルフ場を目指した。スタート30分前に到着。ぎりぎりセーフか。出入り口まで車をつけるのは恥ずかしかったので駐車場に車を停め、ゴルフバックを担いでフロントに向かった。

玄関口で待ち構えていたスタッフにゴルフバックを託しフロントへ。受付を済ませロッカーであたふたと着替える。前日の準備をしていて良かったと、こんなに思う日はなかった。これではろくにパターの練習もできない。親父のばか野郎!とにかく誰かのせいにしなければ気が済まなかった。

少し息切れしている武夫、キョロキョロと辺りを見渡す。遠くで一人黙々とパターの練習をしている夏美を見つけた。先程スタッフに託した自分のゴルフバックは到着しているか?まだだった。パターは後で良い、とりあえず夏美に挨拶をしよう。歩き出すと夏美が気付いた。

夏美 「あ、おはようございます!」
武夫 「お、おはようございます。」
夏美 「武夫さん来ないからドキドキしましたよー!良かったー!」
武夫 「すみません。親父のせ、、、いやちょっと事情がありまして、すみませんでした。とにかく今日は頑張ります。」
夏美 「そうですね!楽しみましょう!」

挨拶を交わした武夫のゴルフクラブは既にカートにセッティングされていた。パターの練習はどうやらできなそうである。武夫が運転、助手席に夏美、実に変な光景だ。武夫の表情も若干こわばっている。1ホール目、武夫は緊張の中、素晴らしい打球を飛ばした。アプローチの練習がドライバーにも生きているのだ。しっかりと芯を捉えた打球はグングン伸びて、240ヤードのフェアウェイ真ん中で止まった。

夏美 「ナイスショット!武夫さん凄い!」

一方の夏美もレディースティーからの第1打はフェアウェイど真ん中。距離こそ出ていないが良い位置だ。武夫の2打目、大きく息を吐きゆっくりと始動。若干ダフッたようにも感じたが力で押し切る。砲台グリーンの為、目視では確認できなかったが、グリーンを捉えた「ドスッ」という低い音が聞こえた。

夏美はチョロ。少し照れくさそうな顔をしていた。カートを夏美に任せ、パターを持った武夫はグリーンに到着した。何とピンそば4mの位置。その時ふと思い出した父とのラウンド、痛恨の4パット。同じ過ちを繰り返さないよう入念にラインを読んだ。緩やかな上りのラインで少しホッとした。夏美もグリーンに到着した。

夏美 「え?武夫さん凄い!バーディーチャンスじゃないですか!」

武夫は得意げな顔をしていた。武夫の3打目、少し強めに打ったボールはカップのわずか右をかすめていった。惜しい、バーディーならず。ただ、残り50cmを難なく決めてパーでホールアウト。夏美は3打目以降も上手くいかず結局7打かかった。

2ホール目、3ホール目をどちらもボギーで上がった武夫。怖い位に良くできた序盤3ホールだ。素人ながら、「モードに入った。」というべきだろうか。打つボール全てが芯を食い、それたのは右に1回だけだった。練習の成果が十分に表れたこの結果に対して、武夫は噛みしめるようにスコアカードを見つめた。

夏美は調子が上がらないのかダブルボギーが精一杯である。次第にいつもの元気が無くなっていった。その後も武夫は、OBを打ちながらも何とかスコアをまとめた。正直、2回目のゴルフとは思えない位の出来だ。

更に凄いのが、武夫自身、「もっとできるはずだ。」と、このスコアに満足していない所だ。前半を終えて武夫のスコアは「51」。「嘘」が「本当」になった瞬間だった。一方の夏美はと言うと…武夫は夏美のスコアを把握していなかった。昼食休憩を取ろうと2Fのレストランに上がってきた2人。夏美が口を開いた。

夏美 「なんかすみません。」
武夫 「え?何がですか?」
夏美 「武夫さんのプレーの邪魔ばかりしてしまって。」
武夫 「え?全然そんな事…。」
夏美 「いえ、回っていて凄く分かりました。本当にごめんなさい。」

武夫はその瞬間、前半の夏美とのラウンドを振り返り、そして後悔した。自分のプレーばかりを考えていて、夏美の事はそっちのけ。ミスした時も何か一声でもかけてあげたのか?夏美はどうだ、気持ちよく回れるような雰囲気を作ってくれて、自分のプレーは後回し。武夫は夏美が楽しくラウンドできるよう少しでも努力したのだろうか?己の間違いに気付かされ、口を硬く結んだ武夫。下を向き、目をつぶり、2人の間には沈黙だけが流れていた。

つづく

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