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ゴルフ小説|武夫のゴルフ上達物語 #11 ~社内コンペと中華街~

夏美とのラウンドから1か月程が経った。その後夏美とは毎日の様にラインのやり取りをし、惣菜屋でもよく顔を合わせている。良好な関係が続いていると言えるのではないだろうか。3か月前では全く想像できなかった事だ。

ある日の朝、会社へ行くと社内掲示板に1枚の張り紙。社内コンペの案内だった。金額的にもリーズナブルだし、賞金も出る。なかなか魅力的なコンペだ。ただ社内の人にはゴルフをやっているという事は言っていないし、変にからかわれるのも御免だ。武夫は案内状に少しだけ目をやって直ぐにその場を後にしようとした。

「武夫!」

上司の声だ。

上司 「何だ武夫、コンペ出るのか?」
武夫 「いえ、そういうつもりじゃ。」
上司 「ゴルフ始めたんだって?聞いたぞ?」
武夫 「え?何で知ってるんですか?」
上司 「風の噂だよ!武夫、社内コンペ初めてだよな?俺と一緒に回るか?何かと慣れないだろうからな。俺となら回りやすいだろ!な?幹事に言っておくから!」
武夫 「え?いや!ちょっとま・・・」

そういって上司は小走りで去っていった。

出席するなんて一言も言っていないのに。しかも武夫は、あの上司少し苦手なのだ。周りの意見も聞かずに何でもかんでも自分で決めて、結局責任は部下になすりつける。勿論一緒にラウンドした事は無いが、どんな風になるかは想像できる。経験の浅い人間と回って言いたい事を言って、気分よくラウンドしたい、まぁ、そんな所だろう。

しかし、なぜ武夫がゴルフを始めた事を知っていたのだろうか。練習場にいる所を誰かに見られたか?まぁ、今となっては大した問題ではないのかも知れないが。

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数日後、社内コンペの組み合わせが掲示してあった。ははは、やっぱり出席になっているではないか。コンペは全4組16名、武夫はその上司と2組目だ。まぁ、練習のつもりで割り切って回ろう、武夫はそう考えていた。その日の夜、武夫はいつもの通り惣菜屋に寄った。今日は確か夏美がいるはず。

「あ、いらっしゃいませー!」自動ドアが開くと、夏美の高い声が聞こえてきた。

夏美 「武夫さん!これ凄く美味しいから食べてみて!」
武夫 「おー!美味しそう!じゃぁ1つ貰おうかな。」
夏美 「武夫さんの好みは私に聞いてくださいねー!笑」

武夫と夏美は先日のラウンド後、急接近。デートこそまだ一度もないが、近いうちに横浜中華街へ一緒に行こうと約束をしている。

夏美 「武夫さん、来週の土曜日はどうですか?中華街行きましょうよ!」
武夫 「来週の土曜日、あ、その日はちょっと予定があって・・・。」

そう、来週の土曜日は社内コンペの日だ。

夏美 「えー、そうなんですか。残念・・・」

少しふてくされたような表情が何とも可愛い。

武夫 「社内のコンペに出る事になったんです。正直あんまり出たくはないんだけど。」
夏美 「え?そうなんですか?凄い!頑張って優勝してきてくださいね!」
武夫 「いや、まぁ適当にやってくるよ。笑」

武夫は照れ臭そうに答えた。

武夫 「来週の日曜なら空いてるけどどう?中華街!」
夏美 「え?本当ですか?日曜日空いてます!じゃぁその時ゴルフの結果も教えてくださいね!」

夏美は実に嬉しそう。惣菜屋を後にした武夫は、来週末が楽しみになった。もちろん社内コンペではなく、中華街デートの方だ。夏美に良い報告をする為にも、社内コンペはそれなりに頑張らなければ。理由はさておき、武夫にもコンペへの熱意が沸々と湧いてきた。

自宅に帰り惣菜を食べた後、いつものように玄関先で素振りを始める武夫。もう毎日の日課になっている。体付きは明らかに以前とは違い、腕だけでなく、下半身も硬く、がっしりとしてきた印象だ。今まで猫背だった背中も、背筋がピンと立つようになってきた様に見えるのは気のせいだろうか。武夫の風を切り裂くようなスイング音が、静かな夜、近所に鳴り響く。インパクトの瞬間、頭を残した直後の「ブオッ!!」という低い音、まるでシングルプレーヤーの様だ。

確かに筋が良いのかも知れない。誰に教えてもらった訳でもなく、染みついた無駄のないスイング。テイクバック、トップの位置、インパクトからの手首の返し具合、素振りだけは申し分ない。Callawayの5番アイアンが、遠心力とヘッドスピードの速さでとても気持ちよさそうに風を感じている。

当日、武夫のこのスイングを見て、どれだけの社内の人間が驚くだろうか。嫌味な上司も目を丸くするだろう。ただ、今の武夫は自分のスイングの事しか考えていない。

つづく

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