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ゴルフ小説|こちら港区ゴルフィ編集部 第4話 ~愛ちゃん初打ち!練習はドライバーから始めるのが合理的!?~

春が近い。とてもいい陽気だ。花粉も少なく風もなく、絶好のゴルフ日和。最近、僕はすごぶる好調だ(もちろん、松山英樹ほどじゃないけど)。もう100どころか、90台を打つ気さえしない。70台も出ようかという勢い。シングル間近だ。持ち球のパワーフェードの精度もかなり上がってきている。

松山にあやかって買い換えたスコッティキャメロンとの相性も上々だ。連日の小春日和でフェアウェイへのカート乗り入れもうれしい。緑の芝の上をカートがすべるように走る。

カートの揺れが気持ちいい。気持ちい…い…。

「は? おいおい、何が気持ちいいって? 人に運転させといて寝てるとは、ふてー野郎だな」

「へっ?」

「へっ、じゃねんだよ。俺が運転してるのになんでタジィが気持ちよさそうに”ご睡眠”なんだよ、それもまだ乗って10分だぞ」

「タジィさん、すごいですね。”瞬間睡眠装置”って感じで」

「うまいねこと言うね、愛ちゃん。でも、信じられないだろ、この態度」

「あれっ、愛ちゃん…」

「愛ちゃんじゃねえんだよ。愛ちゃんに負けるんじゃないかと思って、自己逃避か?」

というわけで、今日は仕事終わりに、編集長のジャンボさん、バイトの愛ちゃんとゴルフ練習場にやってきた。ジャンボさんに言わせれば、”愛ちゃん編集部加入祝い、初打ち大会”だそうだ。なんだかよくわからない。おまけにジャンボさん、マイカー出動での新人愛ちゃんご接待。愛ちゃんに対する期待(?)はいかほどなのかと思う(僕はこんなに歓迎された記憶がない)。ちなみにジャンボさんの車はBMW。まったく似合わない。余計なお世話だが、あまりにもガラじゃない(ミスチルがテーマ曲だった爽やかなCMを思い出すとなおさらだ)。

金曜夜の明治神宮外苑のゴルフ場は混んでいた。少し待たされる。愛ちゃんはフロントで女性用の貸しクラブをジャンボさんに選んでもらっている。僕はその間にトイレに行く。心の準備をしたかった。愛ちゃんの前で恥ずかしい姿は見せられない。いくらソフトボールの元国体選手でもゴルフは初心者なのだ。負けるわけにはいかない。でも、そのポテンシャルを考えると、どうにも不安なのだ。

冷たい水で顔を洗い、気合いを入れてみる。フロントに戻ると打席の呼び出しがあったようで、ジャンボさんと愛ちゃんは2階の打席の方に向かって歩いている。

「タジィ、行くぞ」

ジャンボさんの大声がそこら中に響く。僕は返事もせず、後を追っかけた。打席に着くとすぐに準備体操。ジャンボさんは律儀で、ストレッチをきっちり15分ほど行う。僕や愛ちゃんもそれに習ってストレッチをする。愛ちゃんはとても体が柔らかそうに見える。そのストレッチ姿が、僕に言いしれない焦燥感を抱かせる。

打席は並びで2つ。ジャンボさんと愛ちゃんが一緒、そして僕は一人。ストレッチ後は、まずジャンボさんが愛ちゃんにドライバーのお手本を見せるらしい。練習の始め方は人それぞれだけど、ジャンボさんはいつもドライバーからだ。

「ラウンドする時と同じようにドライバーからが合理的だ」

というのがジャンボさんの持論。

「練習できない時もあるだろ。鳥かごで5メートルしかないゴルフ場も多いからな。そうすると朝のスイング一発目がドライバーだ。そんな時のために練習はドライバーから始めるんだよ」ということらしい。いつも安定して80前後でまわるジャンボさんに言われたら、まあ納得するしかない。といってもジャンボさんはめったに練習しないんだが。

ジャンボさんは相も変わらず力感のないスイング。でも、弾道が凄い。神宮はネットまでの距離がそれほどないので飛距離がわかりくいが、250ヤードを飛ばすジャンボさんのボールは強い。3球ほど打ったが、すべて同じ弾道でネットのほとんど同じ場所に突き刺さる。凄すぎて若干、感じが悪い。

「ジャンボさん、凄い!」

「いやいや、おじさんを持ち上げないでよ、普通だよ、なっ、田島くん」

何でこんな時だけ、田島くんって、くん付けなんだか。おまけにあの弾道が普通なら僕のへなちょこフェード(スライスともいう)はどうなるんだ。まったく感じが悪い。

「じゃ、愛ちゃんやってみる?」

ジャンボさんがにこやかに愛ちゃんに打席をゆずる。

僕は、ウェッジから、ちょこちょこ始めていたが、愛ちゃんの素振りにクギ付けになる。肩回りが柔らかいからかテークバックが大きく、きちんとタメができている。振り出しからフォローまでもよどみない。ソフトボール出身だからか、多少、インパクト近辺では体重が右足に残っているように見えるが、フィニッシュではきっちり左足一本に体重が乗っている。とても初心者とは思えない美しいスイングだ。

「愛ちゃん、ホント、初心者?」

ゴルフについては辛口のジャンボさんも驚いている。僕は驚くよりさらなる焦燥感に襲われている。

「素振りだけ家でやってるんです。ネット動画見て。お手本はボミプロなんです」

「へえ、じゃあ、まあ、ちょっと打ってみようか」

いよいよ、愛ちゃんがボールを打つ。”素振り将軍”という人も結構いる。「止まっているボールを打つのはそんなに簡単じゃないぞ」と心の中で呟いている自分の小ささを呪いながら、僕は愛ちゃんの姿を見つめていた。

つづく

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