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ゴルフ小説|こちら港区ゴルフィ編集部 第2話 ~我慢してつないできたら良いことあるかも!~

ハワイでのゴルフは最高だ。ココナツの甘い香りを運んでくれる爽やかな風。天国かと見まがうような景色。強い太陽の光と乾いた空気に包まれた僕のカラダは、いつも以上に良いパフォーマンスを見せている。ドライバーはゆうにキャリー250ヤードを超え、アイアンはピンを刺す。強気のパッティングで、ボールはカップに吸い込まれるように次々と決まっていく。

ハワイという場所は、相性がすごぶるいいようだ。一緒にまわる彼女が優しい笑顔を見せてくれている。「ソニー・オープン・イン・ハワイ」の取材を兼ねて、オアフにやってきた。最高の気分。こんな素敵な仕事は他にない。ありがとう、田崎編集長。本当にありがとう……。

「はっ? なんだ。タジィ! 俺に今、ありがとうとか言ってたか。寝ながらも感謝するなんてなかなか見上げた根性だな。よっぽど仕事好きなんだな。じゃあ、またハードなミッションを与えてやるぞ」「あ、ありが……。あっ、また、夢? いや妄想か……ハワイにいたのに……」

「ハワイ? おまえがうらやましいよ。いい夢しか見ないなんて。俺はいい夢なんかこの数年見てないからな。ゴルフ行こうとしたら、ウチのに怒られて、取材って言っても信じてもらえなくて。結婚なんてなあ……。まったく泣けるよ」

「ジャンボさん、新婚旅行はハワイって言ってましたよね。奥さんとゴルフしたって」「そうだよ。あのときは優しかったんだよ、彼女も。そのあと、ソニー・オープンを見てな。最高だったなあ」

「いいっすねえ。ソニー・オープンの取材みたいなミッションないっすかねえ」「田島くん、面白いこと言うねえ。そんなのあるわけないでしょーが。そんな経費がどこから出るの。冗談は顔と妄想だけにしてくれる? 今日もやること目白押しよ」「そうっすうよねえ、ふう」

というわけで、2017年のPGA(アメリカ男子ツアー)はハワイでのソニー・オープンで開幕。ジャスティン・トーマスが連勝で今季3勝目。5戦3勝というタイガー・ウッズ以来の記録を打ち立てた。ジョーダン・スピースと同い年で親友って、まったくアメリカはどんだけ人材の宝庫なんだよって思う。

そうそう、人材といえば、ジャンボさん(編集長の田崎さんのあだ名)、うちの編集部にも新人を入れたいらしい。新人が来れば、僕のわずらわしい雑務を押し付けられる。チャンス到来だ。

それにしても新人の情報ナッシングだけど、どんな人が来るのやら。ジャンボさんのことだから、「兄弟採用だ!」とか、つまんないことを言う可能性大だ。「ジェットと呼んでくれ」みたいな270ヤードぐらい飛ばしそうなゴツい男とか、「ジョーです、よろしく」とか言って爽やかなイケメンが来たら、それこそモチベーションはダダ下がりだ。

まあ、ボミちゃんみたいな”スマイル・キャンディ”的女子がこの編集部に来る可能性は微塵もない。編集長がいつも経費ないない言ってる編集部には、”スマイル・キャンディ”の登場は夢物語でしかないのだ。松山英樹のマスターズ優勝のほうがよっぽど確率が高いってもんだ。

そりゃあそうだ。ソニー・オープンから20日あまり。ジャスティン・トーマスもすごいけど、松山英樹もすごいのだ。ウェイストマネジメント・フェニックスオープンで連覇。今季2勝目。賞金ランキング1位。調子はボチボチながらもプレーオフでの優勝。勝負強し! この調子ならマスターズ、全米オープン、全英、全米プロ……複数優勝もあるか!! まあ、あんまり意気込み過ぎるのも良くない。シーズンは始まったばかりだ。

そうそう、「意気込み過ぎ」と言えば、昔、ジャンボさんがラウンド中に話してくれた言葉を思い出した。

「タジィ、おまえはいつも出だしから100点満点狙いすぎなんだよ。それで上手くいかないと必要以上に落ち込んだり、トラブルで無謀なスーパーショット狙って失敗して転げ落ちるだろ。そうじゃなくて、まずはボギーでつないでいくんだよ。パーなんてプロのスコアだからな。心穏やかにボギーでつないでいけば、パーの恩恵が与えられるんだ。そしたら、一気に崩れたりしないんだよ」

そのラウンド、僕は意気込み過ぎて出だしでダボを連発。そのまま総崩れ100叩きまっしぐらだった。でも、ジャンボさんの言葉で落ち着きを取り戻して、100叩きはなんとか免れたのだった。

やはり、意気込み過ぎはご法度だ。フェニックスオープンの松山英樹は、意気込み過ぎではないだろうが、プレーオフを含め、厳しい場面もあった。でも、良くない時でもパーでつないでいた。そして、最後の最後、ワンチャンスを決めたのだ。彼自身、「崩れそうになりながら崩れず、最後までよく粘れた」とコメント。レベルは天と地の差があれ、心構えは一緒かなあと思った。あの時は本当にありがとさんです、ジャンボさん。たまに良いこと言うんです、ウチの編集長は……。

そんなことをぼんやり考えていたら、編集部の出入り口で中をうかがっている女の子がいることに気付く。僕が声をかけようとすると、ジャンボさんの声が飛んできた。

「おーい、愛ちゃん!」「あっ、ジャンボさん、いた!」

女の子はジャンボさんの机にすっと近づいて挨拶した。

「よろしくお願いします。いいんですか、私で」「いいに決まってるよぉ。男ばっかりだけど、よろしくねぇ」

ジャンボさんは僕と話してるときには絶対に出さないような優しい口調で話している。まったく、おっさん、ふざけんなよ!でも、どうやら彼女が例の新人らしい。ちょっと可愛いじゃないか。2年間我慢してきたかいがあった。不満をつないでつないできたから、ご褒美なのかなあ。ホントにありがとう、ジャンボさん。それにしても、仲良さげだなあ、二人……。

つづく

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