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ゴルフ小説|こちら港区ゴルフィ編集部 第12話 ~タジィ、自由になれ!ゴルフ上達の秘訣は、ブッチ・ハーモンにあり!?~

荒涼とした大地が目の前にある。強い風が吹きすさび、雨が頬を濡らす。天気は一向に良くならない。ドライバーもアイアンも自由が利かない。まったく思うように打てない。心を支配しているのは絶望感だけだ。それでも後ろから僕のゴルフをじっと見てくれている人がいる。

えっ、まさか、噓でしょ……ブッチ・ハーモン?タイガー・ウッズ全盛期の偉大過ぎる名コーチ……。なぜ、こんな偉大な人がここに!?「タジィ、ゴルフは心を自由にさせてくれない競技なんだ。その中で自分の力をどこまで引き出せるかが勝負だ。解き放つんだ、心を!」

ああ、ブッチ、あなたの言葉は僕には重すぎる。ああ、ブッチ、ああ、ブッチ・・・。「おい、タジィ。なにブチブチ言ってんだよ。おまえは俺の車に乗ると、いつもそうやって妄想に走るなあ。なんか不満でもあるのか」「へっ? ブッチ、じゃないジャンボ、さんでふか?」

「でふか、じゃない。また、あり得ない妄想に酔ってるんだろう、まったく」ということで、ジャンボさんの車に乗っていた。ここ数カ月、多忙だったジャンボさんが時間が空いたので、練習場に行こうということになったのだ。

なんといっても前回はバイトの愛ちゃんの度肝を抜かれるスイングで僕は自信喪失気味になった。さらに、愛ちゃんはこの数カ月、ジャンボさんからの課題であるパット練習を編集部で毎日続け、家でもスイング研究に余念がなかったらしい。どうなることやらと思い戦々恐々としていたはずだったが、僕はまたもや妄想に走ってしまったのだ。

ところで、今日のトピックはゴルフをやらないはずのケーシーが参加していること。そして、クラブではなく、少し大きめの黒いバックを持参している。「ケーシー、それなんですか?」と聞くと、「行けばわかる」といつものもったいぶり全開で教えてくれない。

とにかく、ゴルフィ編集部の4人で外苑のゴルフ練習場にやってきた。例によって、愛ちゃんはクラブを借りる。ケーシーはといえば、やっぱりクラブを借りる気配もない。大きな黒いバックをもって、一緒に打席に向かう。入念にストレッチを行い、さあ練習だというときに、ケーシーが話し始めた。

「いいか、アマチュアがなぜなかなか上達しないか。それは客観的な目が足りないからだ。それも一流のな。練習場でよく見かける光景として、たいしてうまくないゴルファーが初心者を教えている。はっきり言ってこの初心者は不幸だ。百害あって一利なし。多くの人がそのことに気づいていない。もちろん、スクールのコーチに教えてもらうのもいい。ただ、すべてのコーチが一流なわけではない。難しいとは思うが、コーチを見極めることもゴルフ上達の秘訣ではある」

そこまで話すと、ケーシーは黒いバックからパソコンとビデオカメラ、三脚を取り出した。「今日はボクがキミらのスイングを録画する。それをPCで見ながら、ジャンボが解説する。ジャンボの目は一流だ。スイングを一流の目でも見てもらい、さらに自分でも確認することで、結果、君ら……は、たぶん、急激に上達することができる」

そりゃあ、ありがたいと僕は思ったが、「君ら……」のところで躊躇ちゅうちょしたのは、僕を含めていいかを言い淀んだろうかと気になった。愛ちゃんはおそらく間違いなく上達する。それは僕でもわかる。ところで、ケーシーは編集長で年上のジャンボさんに対しても敬称略なんだと思った。自由な人だとつくづく感心した。

というわけで、僕と愛ちゃんはケーシーにスイングを撮影してもらった。その後、パソコンでスイングをチェック。ジャンボさんに問題点を指摘してもらい練習したのだった。

「ケーシー、二人のスイングをどう見る? なんかあるか?」

「そうだな。ゴルフを一切やらないが、僭越せんえつながら気づいたことを言おう。愛ちゃんのスイングは素晴らしい。体を大きく使っていてダイナミックだ。しかし、おそらく、前回は強いフックのボールが出ていたはずだ。それはコースでは命取りだ。即OB。初心者の場合は、OB一発で流れを一気に崩す。今日はその強いフックが出ないスイングに修正できつつある。フェースの向きや強すぎるリストターンに気をつけていけば、もっと安定していくはずだ」

ジャンボさんがニコニコしながら、愛ちゃんがキラキラした目で、ケーシーを見ている。「さすがだな、ケーシー。愛ちゃんについては同感だ。じゃあ、タジィはどうだ?」僕のことは聞かないでいいのにと内心思った。ケーシーは社交辞令が言えるような人じゃない。容赦なくメッチャクチャ言われると思ったのだ。

「そうだな。ボクは少しタジィを見直した。初めてスイングを見て、仕事場のタジィよりも取り組みがいいと思った。真剣にゴルフに向き合っている。大事なことだ。スライス系の弾道に力強さはないが、OBはほとんど出ないスイングだ。本来なら安定した気持ちでラウンドできるはず。しかし、スコアが安定しないというのは、おそらく精神的なものが原因だろう。何かを気にし過ぎている。今回も愛ちゃんを意識し過ぎている。それぞれの良さがあるんだから、気にする必要はない。自由になればいい。タジィのコンパクトなスイングは小技の反復練習に大いにプラスになる。磨けば、80台は安定して出るだろう」

正直、僕はうれしかった。ケーシーにほめられたのだ。ゴルフ未経験者だけど、なぜかこの人の言葉は重い。仕事場がダメで弾道に力強さもない、精神的にも弱いって、なんか微妙にディスられているけど、80台が安定して出るなんて言われてうれしくないわけがない。

「ケーシー、タジィを甘やかしちゃいかんよ。でも、その意見にも同感だ」とジャンボさんは笑いながら言った。

つづく

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