18番、ジャスティンが僕にサムズアップをする。終盤はまさにマッチプレーさながらだ。15番のイーグルで僕が追いつく。しかし、16番再びジャスティン、バーディーで抜け出す。さすがだ。背中を痛そうにしていたが大丈夫か。
17番、ジャスティンまさかのボギー。これでまたタイ。まだ僕にもチャンスはある。18番グリーン上、ジャスティンのバーディーパットはカップの右をすり抜けた。僕の優勝パット。これもカップ右を通過。外した。
プレーオフ。1ホール目。ジャスティンはボギー。僕は約3メートルのバーディーパットを残す。2パットでもマスターズ優勝。でも、入れることしか考えていなかった。パトロンの視線が僕のパットに注がれる。
僕は静かにボールをヒット。よしっ、ラインに乗ってる。
いける!
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「おいっ、タジィ。何が、いける!なんだ? 俺の話、聞いてるか。久々の妄想だな。ガルシアの優勝、ちゃんと見たのか」
「はい? ガルシアの優勝? 僕のバーディーパットは?」
「なに言ってるの、田島くん。君はバーディーパットなんて、ここしばらく打ってないでしょ」
ジャンボさんのいつもと違う丁寧な物言いが怖い。
「そ、そうですね。妄想、また、ごっちゃになったのか……。ガルシアのマスターズ優勝か……」
編集部は盛り上がっていた。というよりも、編集長のジャンボさんが大いに盛り上がっていた。ジャンボさんは大のセルヒオ・ガルシアのファンなのだ。
「ガルシアは神の子と言われ、タイガー・ウッズのライバルと目され、アメリカでもヨーロッパでもそれなりの勝利を重ねてきたが、どうしてもメジャーがとれなかった。それが、まさかマスターズで、それもセベ・バレステロスの誕生日に優勝なんて。さすが、ガルシア。優勝のしかたが美しすぎる。さすが、神の子」
ジャンボさんは出社すると、僕や愛ちゃんにそう言って語り始めた。そして、ガルシアのメジャーでの惜敗劇(特に熱くなるのが2007年全英オープン、カーヌスティでの逆転負け)や、暴言を吐いたりするけど愛すべきガルシアのキャラについて、さらにテニスの元女王マルチナ・ヒンギスやグレッグ・ノーマンの娘と付き合ったりしたプレー以外のエピソードの数々を滔々と話してくれた。
ところが、あまりの長い話に、不覚にも眠くなってしまった僕は、ガルシア優勝と自分を重ねるという自分好き全開の暴挙的妄想に入ってしまったのだ(僕も早起きしてマスターズ中継を観ていたので許してください、ジャンボさん)。愛ちゃんはしっかりフンフンと聞いていたようだった。ちなみに愛ちゃんは、若い女の子らしくリッキー・ファウラーが好きだと言っていた。単純にカッコいいと。最終日、1打差3位で出たのに残念ですぅとジャンボさんに話していた。
とはいえ、僕もガルシアの優勝はうれしかった。なんだか愛せる選手なのだ。その見解についてはジャンボさんとも一致している。ジャンボさんのガルシア好きの要因は他にもある。スイングだ。妄想から覚めた僕と、目を輝かせて話を聞き続ける愛ちゃんにジャンボさんは語る。
「ガルシアのスイング、素晴らしかったな。まあ、常人が簡単にマネできるようなスイングではないけどな。強い身体とガルシアの天才性がなせるスイングだ。でもな、トップでのあのタメは参考になるぞ。あのタメによってスイングが加速して、ボールに強い力が加わる。スイングが生み出すエネルギーがしっかりボールに伝わる。腕ではなく、下半身でスイングを引っ張るんだ。だから、飛距離も出る。俺もじつは参考にしている」
ジャンボさんは、体は細いのに飛距離が出る。その秘密は「ガルシアのタメ」にあったのかと改めて僕は思った。トップでのタメと、下半身の使い方が上手いからこその飛距離なのだろう。
「タジィは、アウトサイドイン軌道のスライス系だから、ガルシアのスイングは参考になるところがあるかもな。次回の練習場で一緒に研究してみるか?」
技術的なウンチクはあまり得意じゃない僕だけど、ジャンボさんにそんなふうに言われたら、しっかり研究して練習したいと思うのだった。
いつもの「へたれ練習」返上でがんばります! ジャンボさん!!
つづく