ゴルフクラブ用語には擬人化したものがたくさんあります。まずはヘッド。フェースがあって、ネックもあります。ヒールは踵で、トウはつま先なのは、クラブの形が足に似ていたからなのでしょう。無意識に使っている擬人化された用語には、クラブを愛おしいと感じていたゴルファーのDNAが含まれているのです。
「このクラブの顔が好きなんだよ」ゴルフショップでも耳にしますし、ゴルフ用具のゴルフ談義でも使われています。安易に使われる『顔』なのですけど、その意味をちゃんと理解しているゴルファーは少数のような気がします。
現在ドライバーのヘッドは460ccが主流になりました。デカヘッドと呼ばれたのは昔話になりつつありますが、今でもヘッドがシャローになっていて(薄く平べったいこと)構えたときに大きく見えるウッド系のクラブをデカヘッドということがあります。これはヘッドが大きいというそのままの意味です。
面白いことに、ヘッドが小さく見える場合に使う用語は『小顔』です。ヘッド=頭の話なのにどうして顔が出てくるのでしょうか?真相を探るために、パーシモンでウッドクラブが作られていた頃まで時間を遡ります。パーシモンは柿の木の一種で、加工のしやすさと硬さと重さのバランスなどで試行錯誤の中で最もゴルフクラブのヘッドとして適している素材として選ばれました。
自然のものなので、一本として同じものはありません。大量生産で機械で削り出すメーカーもありましたが、究極は職人が手作業で仕上げるものが好まれました。その木の木目や微妙な重量の差を考慮して、ブロックごとに最良になるになるように削られたウッドのヘッドは、かなりの個体差がありました。
当時、購入するときには、同じ銘柄のウッドを何本も並べて、一番しっくりするものを選ぶのは当たり前の光景でした。職人の腕の見せ所の一つがフェースの見せ方でした。極端にいえば、丸いヘッドの一面を切り落としてフェースにするわけですので、ロフトなどの優先するスペックを考慮しながら細心の作業でフェースは作られます。木材は全て違いますので、微妙な差が生まれます。これがウッドの顔の好き嫌いになっていったのです。
元々は、クラブの顔という場合は、アイアンに限られていたようです。アイアンは構造上、フェースが構えたとき見えるのでヘッドとイコールになります。今でこそ、アイアンのフェースはほとんど差がなくなりましたが、20世紀の後半までは、ハッキリとわかる色々な形状のアイアンフェースが存在していました。また、製造する精度も今よりは低かったので、個体差もあったのです。
「良い顔している」という表現は職人への褒め言葉で、アイアンに使われていた表現なのです。
ウッドの場合は、ヘッド全体のことは昔から形という表現を使って、現在ではフォルムというような表現を使います。フェースの部分がどのように見えるのかは、無意識であってもゴルファーが打つときに大きく影響します。金属ヘッドになり、個体差がほぼないほど製造する技術が上がったので、クラブの作り手は設計段階からフェースがどう影響するかと熟考しています。ウッド系のクラブの顔も、文字通りフェースとその周辺のことを表現しているのです。
ウッドでもフェースのついている位置やアドレス時の見え方で弾道をイメージできるので、顔という表現でわかり合えるのです。最初の疑問に戻りましょう。小さなヘッドのことを小顔と呼ぶのは、小さめのアイアンヘッドがのほうが好きなゴルファーが使い出し、ウッドの場合もフェース面の長さが長いとライが悪いときに抵抗になるので、フェースの長さが短いほうが使い勝手が良いと考える人が、同じ意味で使い出したものが今に残っているのです。フェースが判断基準だったので、小頭ではなく、小顔なのです。
ゴルフクラブの顔について、今までの使用法で大丈夫でしたか?アイアンはネックの見え方、膨らみの大小なども顔に含まれます。ウッドの場合もフェースの膨らみであるバルジや塗装の切れ目、スコアラインの見え方なども総合して語られるものです。もちろん、ゴルファーの数だけ好みがありますが、イケメンや美人の基準が曖昧で時代ごとの流行もあるように、一概に一言では語れないものです。
安易に知ったかぶって自慢気に語って、後から大恥をかくことがゴルフではよくあります。違いがわかるゴルファーは、例外なく、勉強を怠らず、蓄積だけではなく、常に修正する重要性も理解しています。ゴルフクラブの顔という表現を使ってゴルフ談義ができるゴルファーになるために、再確認をしましょう。知らないことは恥ずかしいことではありませんが、知らないことを放置するのは恥ずかしいことなのです。