ゴルフはできるだけ少ないストロークでホールアウトすることを目的としたゲームです。スイングを磨くのも、ゴルフクラブを選ぶのも、突き詰めていけば全ては1打でも縮めたいという願いがベースになっています。
初めは憧れだった『パー』が、徐々に上手くなっていくと当たり前になっていきます。この頃のゴルフはゴルファーにとって一つのピークで、面白くてたまらない時期でもあります。しかし、あまりにもスコアにこだわりすぎると、視野が狭くなってゴルフの深い迷路に入り込んでしまうのも事実なのです。
広い視野でゴルフを見ることは、飛んで曲がらないドライバーを手に入れるぐらい大事なことです。
そもそも『パー』というのは、何なのでしょう?
熟練のプレーヤーがグリーン上を2パットで終えると想定して、1打目で届くホールをパー3、1打では届かないが2打目なら届くホールをパー4、それよりも長いホールをパー5というように決めた基準打数のことです。普通に答えられますけど、用語として運命のイタズラに翻弄された歴史はあまり知られていません。
今では普通に使っている『パー』という用語は、本場のイギリスとスコットランドでは長い間、使われていませんでした。『パー』はアメリカ生まれの用語なのです。
ゴルフが育ったスコットランドでは、SSS(スタンダード・スクラッチ・スコア)というのが標準打数として使われていました。19世紀末、ドライバーの平均距離が180ヤードほどだった時代に設定されたものでした。(厳密には、アメリカでパーが生まれたことに対抗して作られました)
20世紀になって、アメリカでは、新発明の飛ぶボールの影響でゴルファーのスコアが急激に良くなっていきました。新しい基準打数が必要になって『パー』が生まれたのです。
スコットランドでも、慣習で各ホールの基準打数として使っている言葉がありました。ボギーです。ボギーは、ほぼSSSと同じスコアでした。元々はお化けのようなスコアという意味の言葉でしたが、『パー』と比べるとボギーのほうが悪いスコアでした。
数値化できることにかんして曖昧にしないアメリカの国民性が『パー』を生んだのは想像できますが、数世紀にわたってゴルフをしてきたスコットランドで基準打数が生まれなかったのにも、納得できる理由があるのです。
スコットランドではリンクスのゴルフが中心だったので、風向きが一定ではない強風の中でプレーする場合、前日にアイアンでグリーンに乗せたホールで、次の日に風向きが逆になったりすればドライバーを強振しても届かないということは日常茶飯事でした。距離だけで基準打数を決めるなんて、全く意味がないと考えるゴルファーが多かったのです。
1908年、アメリカでは全米ゴルフ協会が単独で『パー』は基準打数であると発表しました。その直後、アメリカに遠征に来ていたイギリスの選手が5打で終えた440ヤードでパー4のホールのスコアを確認したところ「ボギー」と答えたので、あまりゴルフを知らなかった記者が、パー4のホールで1打多いことを本場ではボギーというのだと勘違いして、記事を書いたのが世界中に間違って広まり、『パー』はますます市民権を得ることになってしまったのです。
それから90年後の1998年。世界最古のオープン競技である全英オープンで、史上初めて「開催コースはパー70である」と発表がありました。スコットランドでも『パー』が認められたと話題になりました。
『パー』の歴史を振り返って、ちゃんと知ってみると、そんなものなのか、と思えるようになります。一つの基準に過ぎず、ケースバイケースで変更できるものなのです。『パー』という呪縛にとらわれて、楽しくゴルフができなくなってしまうのはバカバカしいことです。
目の前のストロークは、ゴルファーにとって全て等価です。それが何打目だからと、重くなったり、軽くなったりもしないのです。『パー』を上手く利用するのもゴルフの腕前なのだと考えて、ゴルフを楽しむのが正解です。